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Zoetrope

「さあて・・お立あい・・じゃあ・・のぅ・・」
 
 爺はそう言って、入れ歯の抜けたくしゃくしゃの顔の笑顔で、そう言った。
 
 男は、ポケットからくしゃくしゃの札を二枚取り出すと、爺に渡す。上目遣いにちらりと一瞥をくれるとニヤリとして、奥座敷の襖の奥に消えた。
 
 酒場を装った女郎置屋か美人局とも一寸疑ったが、爺の言うままに暗い奥座敷に通されてみると、何やら違う趣向の雰囲気が醸されていた。

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「なんぞ辛いことでもあったのかいの」
酒を注ぎながら、爺は人懐っこい笑顔で総菜をすすめる。

姉の命日だった。
腹違いではあるが、男は姉を慕っていた。
7つ年の離れた姉は、酒癖の悪い父と再婚した"あの女"が連れてきた。
ろくでもない男にろくでもない女。お決まりの三文小説の堕落を絵に描いたような生活。
女は姉を置いて他の男と雲隠れ。男の唯一のよりどころは、笑顔を絶やさない姉の存在だった。

荒れ放題の墓を通り一遍清めると 万感の想いがこみ上げてきたが、
さりとてそれを語りあかせる相手もいない。

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「お若いのは・・幻灯機を知ってるかの・・?」

活動写真もキネマカラーだというのに、なんとも古臭い・・とは思ったが、爺はそんな心を見透かしたように、男をじっと覗き込む。

「オマエが死ねば、保険金で払えるんだろっ!」罵声、罵声、罵声。
その中でひたすら床に頭をこすりつける。あと30分、一時間、それとも。
土下座して下げた頭の上を、怒号が駆け抜けていく。終わりがない茶番劇などない。

雲行きが変わると、潮が引くのは早い。
使用人になけなしの金を握らせると、着の身着のままで男は東京を離れた。

墓で夕刻まで佇んだが、寂れた田舎町では行くあてもたかが知れている。駅前まで戻ると、小汚い商店街の小さな酒房ののれんをくぐった。

この数ヶ月の心労にしみこんだ酒が、一人で切り盛りする爺の相好を崩した笑顔につられて、男の口の留め金と頭の螺子を緩めたらしい。身の上をあることないことまでついつい話しこんでしまった。
それならば、面白いものを見せてやるという。
爺が言うには、ゾエトなんとか・・爺の自慢の珍しい幻灯機つきの回転のぞき絵を見ていかないか・・
損はさせない、と。

もちろん、その爺の含んだ艶っぽい含み笑いに、何やらゾクっとする妖しさに好奇心をそそられたところもある。ずいぶんと酒のまわった男は言われるままに、暗い酒房の奥へと夢見心地で導かれた。

ブーン。
何やら奥座敷から回転する音が聞こえたと思うと、閉じた襖の隙間から灯りが漏れ出す。
回転するものの風を切る音の単調さに誘われて、男は一歩、核心に向けて歩を進めた。

後の襖が音もなく閉じる気配に一寸ゾクリとしたが、それを眼前でこれから繰り広げられるものへの好奇心にかき消された。

------

"あの女"が去ってからは、父に夜な夜な犯され、抗い、殴られ。
不眠に悩まされるようになって日増しにやせていく姉を守るには、幼少の男は心も身体もひ弱すぎた。
父に歯向かって殴られるたびに、姉は細い腕で男を抱きしめてくれた。
その腕にかすかに残った温もり。男は何度も、自らを慰めた。

ある日、姉は、列車に身を投げた。

今でも記憶に焼きついている。
病院の霊安室で見た棺と、裏口を出たところに置いてあった血のりのこびり付いたブリキのバケツ。
無造作にそれを洗う用務員を茫然と眺めていた。

遺体と対面することは最後までなかったが、姉の部屋にあったカルモチンという大量の睡眠薬が入った瓶を握りしめ、泣いた。

父はどこかへ消えた。

------

開いた襖の隙間から覗いた奥座敷には、姉がいた。

バラバラになったはずの躯を包帯とチェーンで繋がれ、生命を吹き返した姉は。

妖しく肢体をくねらせて、悶えていた。

仕組まれた罠に、思わず後を振り返ったが、既に誰の気配もない。

------
目が覚めた。

厭に嫌悪感を引きずって、現実に引き戻される。
床に転がった空瓶から、大量の錠剤が散らばっていた。

薬の量が足りなかったのか。

茫然としたまどろみの中を彷徨う。
------

あの日。姉は「一緒に死のうか」と笑顔で言った。左手には茶色の薬瓶が握られている。

ぎょっとして姉を見つめた。喉に詰まった言葉が、唾液を吸収してカラカラに乾いていく。
姉はその表情を笑いながら見つめていた。

「男の子は正直ね。かわいい。」

真剣に考えたのに担いだのか、と。不安が急に怒りにかわって腹の底からこみ上げてきた。
姉を残して走り出していた。
それが、最後になるとは知らずに。

爺が言った、「ゾエトロープ」。
それが"走馬燈"の一種であることを男が知ったのは、それから十数年の歳月を経た後だった。

姉のもとに逝こうと飲んだカルモチンという睡眠薬。
致死性が低いため、簡単には死にきれない。

そんな事実を、姉は、はじめから知っていたのかもしれない。

nezumi

Trxxxxxx works "Zoetrope"-a story dedicated to RAMPO E.-

テーマ:SM - ジャンル:アダルト

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補足説明

お友達が写真を撮ってくれました。まるで挿絵のようにぴったりくるのですが、球体人形をイメージしていたとのこと。小説も彼の手によるものです。ご感想などいただければ、作者が直接コメントを致します。

ちなみに、被撮影者のコメントは・・・「眼帯したのにぃ~写ってナイー(泣)」とか、「せっかくのナマ肉露出なのにぃ~(前エントリーを参照願います)」とか、「あああ・・チェーンなのに外国っぽくない長さの足だよう(自己責任)」とか、徹頭徹尾自分勝手なものでくだらないので答えかねるそうです(笑)

実家からこっそりのぞいてます

文章も画像も吸い込まれちゃいました!
くぐつみたいになりたくなっちゃいました♪

瑠美さん

コメント感謝します。

少しタイムスリップして数十年前のレトロな雰囲気をお楽しみいただければ幸いです。

ご来阪の際はぜひ傀儡化してみたいもんです(笑)

くぐつ・・・

くぐつ・・
瑠美さん
ご実家からわざわざありがとうございます!!

包帯、眼帯ともに、瑠美さんのサイトでしか見たことがありませんでした!!(そういうジャンルがあることは知っていたけど、よく解ってませんでした。)瑠美さんのセルフショットで、頭までぐるぐる包帯まき写真が忘れられず、相方と二人で試行錯誤してみたのですが・・やっぱりすぐに取れてしまって使い物にならず・・(><)
プロフィール

鼠子

Author:鼠子
音楽と東京を謳歌する変な人。ルーツはSMだけどゼンタイ、W&Mなど、皮膚感覚とアングラを愛してます。趣味は18禁なドキュメンタリーを撮影すること。blogでは過去と現在、現実と非現実、日常と非日常のコラージュをお届け中。のんびりふらふら放浪してます。ブログのご感想など、メールでもお待ちしております。こちらからお願いします。
ツイッター @nezuminoko
フリッカー(写真おきば)
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