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「畳の上で転がして縛ってみたいんだよ」
私はレンズの向こう側の人間を知りたいと願う。
写真家の狂気が私を生かす。

8月の終わり。
うだるような蒸し暑さは日暮れ前にも残っていた。髪の毛がうなじに貼りつく。
それでも、緊張で不快感はあまり感じない。
川沿いに降りると、時折、涼しい風とともにトンボがやってくる。
辺りは公園らしく整備されていて、遠くに滑り台やブランコが見える。
小さな白い毛むくじゃらな犬が歩いている。
バスケットゴールの下には少年がいる。何度もドリブルとシュートを繰り返す。熱心に。
歩くだけで、帯の下がぐっしょりと湿るほどの暑さだ。
少年のTシャツも重く濡れているのだろう。

「これ」
ベンチを見つけて座った彼は、ポケットから小さな箱を取り出し、私にくれた。
濃紺の箱の外側には真っ白で艶のあるリボンが結ばれている。
中には、保冷材で冷やされていたのだろう、チョコレートが4粒。水滴を纏わせてそれぞれの枠に収まっている。
舌の上で溶ける生温かい塊が想像されて、触れるのをためらう。
丁重にお礼を述べ、折角の美味しいものです、もう一度冷やして、ぜひ一緒に食べませんかと尋ねた。
彼は笑って「いいですよ、そうしましょう」と言ったあと、箱の中から一粒、そっと持ち上げた。
長い指だった。
私の目の前で、コガネムシのような光沢を保ったまま、ぐにゃりと潰れていく。
甘ったるい匂いが鼻を刺す。
その塊で顔をぐちゃぐちゃに汚されるのだろうと思い、強く目を瞑った。

「せっかくお化粧をしたのでしょう?汚されるために。」
目をあける。
男は足元に腕を振り下ろした。数時間前までショウウインドウに飾られていたそれは、一瞬で砂にまみれた。
嫌悪感に男から目を逸らし、顔を上げる。
少年はまだ、ボールを跳ねさせている。
左手だけでボールを器用につかみ、シュートする。弾かれたボールを手にするのもまた、左の腕だ。
少年の体には大きすぎるTシャツ。右手のあるはずの袖が、汗を含んで重く揺れている。

「汚してあげたいけど、ここは人が多すぎるよ。これで我慢して」
彼はハンカチでチョコレートを拭きとるとポケットにしまった。そして私の両手首を掴み、箱を飾っていたリボンで素早く纏め上げた。
ずん、と身体が重くなった気がした。
どうしようもない、この機能している右腕も、私自身も、この男も、正しくない存在なのだ。
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トンボが止まってくれたのは、ほんとうのこと。
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テーマ:SM・拷問・調教・凌辱  - ジャンル:アダルト

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No title

昔、コメントさせてもらった者です。
写真とSSを楽しませていただきました。
いつもの堂々とした(失礼)緊縛も素敵ですが、紐で手首を縛るだけの拘束がいいですね。
和服の楚々としたお姿が美しいです。
人目を忍んで手首を縛られた『私』と、こんな有名な場所で人通りを避けて撮影された鼠子さんがオーバーラップしています。
隻腕の少年は、自由を奪われる女性の象徴か、それともこのとき本当にお見かけになられたのか。
不謹慎ながら、私は鼠子さんが片腕をもがれた姿を想像してしまいました。ごめんなさい。

ほんとにね

どうしようもない。
いつも私もそう思っています。

正しくなんか、まるでない。わかってる。
でも、どうしようもない、って。

ねずみこさんの文章は独特で静謐で、時々胸が詰まります。
初めて縄をかけられた時の、泣きそうな気持ちを想いだしちゃいました。

このところ表生活でヤなことあって、テンションが微妙に下がってたんですが、おかげでちょっと戻りました。

感謝すべきなのか、それとも残念がるべきなのでしょうか?あたしは。(笑)

82475 さま

再びコメントをくださったとのこと、ありがとうございます!嬉しいです~。
延々とこんなしょうもないことを続けていると、(震災も噴火もあったし)何をやっているんだろうなあと自己嫌悪しております。いわば「はきだめ」のような場所ですから、片腕をもがれたねずみこ、も在るんじゃないかなと思います。現実と妄想が混じり合った沼が、いつまでも必要なんです。

Re: ほんとにね

プラタナスさん
おおお、それはよかった!初めてのマロニエさんとの甘酸っぱい思い出!!素敵じゃないですか♪
まあ、ダメ人間はアレですけど・・人に迷惑かけてなければ良しってことにしましょうよー!
(変態友達がいるとついつい「ま、いいか」って思ってしまいますね~笑)

No title

詩的な文章の中に、ねずみこさんが抱えているものを垣間見た気がします。
きつねの面がねずみこさんの、本当の顔だったりして……とも思えますね。
いつからか澱み始めた沼は、今どれくらい澱んでいるのか。
気付いたときには、すっかりはまり込んでしまっているのかも。

「序」ということで続きを楽しみにしていますね。

吉村さん

ありがとうございます。写真の整理でぐったりしそうなところ、励みになるコメントでした!
面は本当に不思議なものです。
自分がわからなくなるのです。自分の顔をなくすのは不安でもあり、解放されたような気分にもなります。視界が遮られて、黒い世界になってしまうのも楽しいし・・怖かったりもするし。やみなべみたいですね(笑)

不思議・・・

 仮面やマスクを付けると別人になられたような感じですね。

 普段の鼠子さんを知らないのでここでは想像でしか分かりませんが仮面やマスクが有る無しに係わらず素敵な女性だと思います。
 色々と楽しみにしています。

Re: 不思議・・・

コンテさん
ありがとうございます、嬉しいです~(*^^*)
普段はともかく、非日常に在るときはそれ自体が役や仮面のようなものです。狐面は別のところに連れていってくれるようで、とても好きなのです。

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鍵コメントさま

汽水域の帯、どんなのだろう!とても心惹かれる文章を贈っていただきました。ありがとうございます。

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鍵コメさま

ぼくらはみんな生きている、この不思議な世界に。
汽水域は二つの世界の境界ですよね。境界が線ではなくて帯になっているところがいいなあ。
ありがとうございます。
プロフィール

鼠子

Author:鼠子
音楽と東京を謳歌する変な人。ルーツはSMだけどゼンタイ、W&Mなど、皮膚感覚とアングラを愛してます。趣味は18禁なドキュメンタリーを撮影すること。blogでは過去と現在、現実と非現実、日常と非日常のコラージュをお届け中。のんびりふらふら放浪してます。ブログのご感想など、メールでもお待ちしております。こちらからお願いします。
ツイッター @nezuminoko
フリッカー(写真おきば)
http://www.flickr.com/photos/nezumiko/
タンブラー 日常
https://www.tumblr.com/blog/nezuminoko
タンブラー 非日常
https://www.tumblr.com/blog/lamia-nezumiko


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