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用務員室

鹿鳴館サロンには「書き方講座」というイベントがある。月に一度、小説の書き方の講義があり、それに従って課題を書く。
ここでご紹介するのは、「状況設定小説」というものだ。
あるシチュエーションから、参加者は小説をリレーのようにつないでいく。その「状況」の部分である。

「あなたらなら、この文章の先にどんなストーリーを紡ぎますか?」
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景気が少しばかり回復していたことと、クリスマスが日曜日と重なっていたことが影響してか、街は例年よりも賑やかだった。街が賑やかな分、人里離れた場所は静かだった。それが、数年後にはダムの底に沈む村だとすれば、なおさらである。そんな村の、とっくの昔に廃校となった学校を目指して、一人の男がやって来た。その学校は車で行くことの出来る場所にあるのだが、その男は、わざわざ学校の裏山の小さな空き地スペースに車を停めた。そこは土地の人間が山菜採りのために停めるか、あるいは、釣り人ぐらいしか利用しない停車スペースだった。
 男は水と少しの食糧の入ったクーラーボックスと一緒にいくつかの釣り道具を降ろした。男の格好も釣り人のそれと似ていたが、どこか不自然だった。
何しろ、この男には釣りの趣味などないし、男が目指す場所は川ではなく廃校だったのだから当然かもしれない。
 獣道のような険しい山道を男は降りた。雪がチラついていたが、男は、その辺りでは十二月には雪が積もることは、めったにないことをよく知っていた。
 ところが、天候というものは、しばしば人の期待を大きく裏切るもので、男が学校の裏山から、ようやく二階建ての小さな木造の校舎に辿り着いた頃には、雪はしっかりと積りはじめていた。
 ため息をついて男は戸締りのない校舎裏から中に入った。木の廊下を靴も脱がずに男は用務員室を目指した。男は知っていたのだ。その小さな部屋には畳があり、まさかストーブまではないだろうが、他よりは、幾分、温かいということを。
 ところが、用務員室の廊下で男は驚くべきものを見ることになった。雪明りとは別の明かりがその部屋から漏れていたのだ。
 男がこの日を選んだのには理由があった。日曜日以外には村の人間が学校を不当に利用されない用心として交替で見まわっているが、さすがに日曜日には人がいないということ。その上、今日はクリスマスである。こんな日にダムに沈む廃校に人がいるはずがない、と、そう思ったのだ。学校を不当に利用する者というのは、主には、都会の若者たちだった。彼らが肝試しとか、あるいは、スリルあるセックスを楽しもうとして、そこを利用することがあったのだ。どうせダムの底に沈むのだから、村が守ろうとしているのは学校ではない。むしろ、そこでケガなどしないようにと、不当に利用するその若者たちのことを心配して、村の人たちは見まわっていたのだ。ゆえに、まさかクリスマスの日曜日には人などいないと男は思ったのだ。
「すみません」
 男は戸口から声をかけて鍵などない木の戸を開けた。
 釣りに来たが道に迷ったと言えばそれでいいのだ、と、男は考えていた。しばらく暖をとって、中の人間が出て行かないようなら、天候を見計らって帰ればいい、と、そうも男は考えていた。
 中にいたのは男が予想していた人間とは、まったく別の男女だった。その男女が知り合いではなく、彼らもまた、たまたま、ここで出会ったばかりだということを、男は二人の話から知ることになる。
「この辺りは、この時期には雪など降らないと思ったものでね」
 部屋の中にいた男が言った。彼は自分は天文マニアでもうすぐ来るらしい彗星を見るのに、この場所が相応しいかどうかを確かめに来たのだと言った。その男の隣には厚いダウンコートと首まで覆うセーターが置いてあった。他に荷物らしいものは持っていない。年齢は五十歳ぐらいだろうか。物腰はやわらかいが、その年齢にしては均整のとれた身体をしている。天文マニアとか学者ふうには見えなかった。
「油断でした。私は、都会育ちなものですから、雪に対する備えなんかなくて、こんなに積もってしまっては、車を出すことも出来なくて、それで困っていたところで、この学校と、そして、この部屋を見つけたんです」
 女は、二十代前半だろうか。黒のダウンジャケットの下は薄いセーターだったので、身長は低いがスタイルが良いのは、すぐに分かった。男の持って来たクーラーボックスと同じようだが、それよりは小さなバックが置いてあった。
 女は、カメラマンで、ここには撮影のロケハンに来たのだと言っていた。この状況で、五十歳近くの男がいる部屋に、いくら寒く、そして、雪に難儀しているとはいえ、不安そうな様子もないまま平然と居るのは、何ともおかしかった。しかし、カメラマンというのは、そうした人種なのかもしれない、と、男はそうも思った。
鹿鳴館執事 著
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起承転結の、「起」は次の機会に。

テーマ:SM・拷問・調教・凌辱  - ジャンル:アダルト

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プロフィール

鼠子

Author:鼠子
音楽と東京を謳歌する変な人。ルーツはSMだけどゼンタイ、W&Mなど、皮膚感覚とアングラを愛してます。趣味は18禁なドキュメンタリーを撮影すること。blogでは過去と現在、現実と非現実、日常と非日常のコラージュをお届け中。のんびりふらふら放浪してます。ブログのご感想など、メールでもお待ちしております。こちらからお願いします。
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