FC2ブログ

小倉ミチヨ

小倉ミチヨの著作、「入院記録、退院の後、更生途上にある独房の阿部定隣室観察十日間」を読んだ。
彼女は夫の清三郎と共に、三十年にわたって性の研究誌「相対」を出版している。逮捕や強制入院、家族との死別、と、波乱万丈な人生を送った人物である。
この本は三人目の子を妊娠中に胸を患い、五カ月で堕胎する、その前後の記録である。
中でも、夫婦の性生活が詳しく書かれているのだが、それと普段の生活とが全て同一線上に描かれている。

この本の中で、おそらく最も頻出なのは「春的」という単語である。
春的な夢、春的経験、等々。
肋膜炎を患い、手術をしたその一週間後、夫が病院を訪れた時のことは、こう書かれている。
******************
夫は手を私の胸のところへあてて動悸をみた。みておるうちに、その手がひょいと乳房に触れたので心地よかった。私はアーと言った。夫は私の顔を見ながら、そのまま手を引かないで乳房をいじりはじめた。乳房の感じと同時に、陰核に於いて強い感じが起った。なおもいじっているうちに、私は、たえられなくなったので全身に力を入れて夫の手をにぎりしめた。看護婦が入ってくると夫は手を引いてそしらぬ顔をしておった。すぐに看護婦は出て行った。またいじりはじめた。私はまたたえられないので、いじっている夫の手にかじりついて、しばらくしゃぶっていた。
*****************
例えば、彼女は「ミルクフード」を好む。
これがどんな食べ物だか、私にはわからない。検索をしても、ベビーフードばかりである。産婦人科の話が多いので、赤ちゃんのためのものかもしれないが、彼女は入院で出てくる食事がまずくて食べられず、ミルクフードばかり作ってもらい、飲んでいる。そのたびに、とてもおいしい、と書いている。飲んでみたい。

退院する時、夫は電車で、彼女は車で帰る、と書かれていて、不思議に思う。なぜ一緒に帰らないのかと。
読み進めると、何と人力車である。なんだなんだ、何時の話だ、と慌てて頁をめくると、「一昨年の地震で」とある。うわー。関東大震災か、これ。ということは、戦前の出来事であったか。(ミチヨさんは、明治生まれ)

こんな日記もある。退院した後、ミチヨが共同水道で洗濯ものを絞っていると、男が通りがかった。ズボンから陰茎を取り出し、勃起させようとして手を動かしているのである。ミチヨは「馬鹿なやつもあったものだ」とつぶやき、そのまま洗濯ものを絞っていると、ふらりとどこかへ歩いて行ってしまう。
そのことを隣の奥さんに話すと、「あら、いいことをしましたねー」と言われるのである。
***********************
「奥さん、このころの時節に、あんな病気が多いんですって。あれはいんらんと云うでしょう。ちょこっと三本の指でつばをつけて、真っ赤な大きさの五寸ほどなのをシャッシャッシャッシャッと動かしてね、なかには真っ黒いまるで印度人のようなのもありますよ。そして、平気でシューシューと白いのを出してね」と手真似をしながら云った。その手まねがなかなか上手かった。私たちはお腹の痛くなるほど笑った。私にむかって「あなたが平気でいたから面白くないもんだから、途中でよして行ったんですよ。きっと。またこの先の水道橋あたりでやって居りましょうよ。女に見せるのが嬉しいんですよ。あんなをせんずりこきといいましてね。奥さんは、よいことをしましたね。今日はきっと、よいことがありますよ。あれを見た人は、大変良いんですって」
************************
谷中、千駄木、田端。動坂や団子坂あたりの描写が多いことも楽しめる。百年前のご近所さんである。子供をつれてステーションに電車を見に行く、と書いてあった。2016年5月現在、ちょうど田端駅は開業120年で、写真展をしていて、これを見に行ったばかりである。大きくパネルに引き伸ばされた写真からは、煙突の目立つ工場地帯と、その外側に広がる田畑を遥か遠くまで見渡すことができた。あの風景をミチヨさんも見ていただろうか。
さらに、本文中では動物園まで、電車に乗らずに行き、また歩いて帰って来た、ともある。ひえー。小さい子供も二人、普通に歩いたようだ。上野までは急な坂を越えていかねばならぬ。百年前の方々は健脚である。

巻末には、彼女が収監中の日記が載っていた。逮捕された時、何と隣の独房が阿部定だったという。
独房で過ごす阿部定の様子のレポートを目当てに読み始めた本でもある。

他にも、小倉ミチヨの少女時代の話(海辺の村育ち)なども描かれているが、大変に面白かった。性にまつわるゴシップは、現代のようにフィルターがかけられることもなく、グロテスクなものも含めて、親や近所の人たちの話が聞こえてきてしまう。
彼女の文章は、百年前の性のリアルを伝えてくれる。


↑Amazonにリンクしています。

コメントの投稿

非公開コメント

昔の方が、今のように雑音が多くなく、純粋でおおっぴらな性だったように感じます。
色んなことが濃く、深く。
そして、いつの時代も性欲って普遍だなぁとも。
やっぱり人間の本質なんだと思います。
だから、僕も素直に表現していきたいです(^-^)

ビキニストさま

ビキニストさんは、ストレートに表現されてますよね。
とても、共感できます。
私はまだまだ、うろうろしてる感じ。ミチヨさんのように決然とはいかないです。お二人とも、かっこいいなあと思う。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

鍵コメントさま

ありがとうございます。
いえいえ、よく覚えています!
あの一日はとても刺激的で、とてもエキサイティングな体験を愉しみました。
あの頃から、鍵コメントさまは変わられたのでしょうか。表現がとても鮮やかで、今は眩しいくらいに輝いていらっしゃいます。
プロフィール

鼠子

Author:鼠子
音楽と東京を謳歌する変な人。ルーツはSMだけどゼンタイ、W&Mなど、皮膚感覚とアングラを愛してます。趣味は18禁なドキュメンタリーを撮影すること。blogでは過去と現在、現実と非現実、日常と非日常のコラージュをお届け中。のんびりふらふら放浪してます。ブログのご感想など、メールでもお待ちしております。こちらからお願いします。
ツイッター @nezuminoko
フリッカー(写真おきば)
http://www.flickr.com/photos/nezumiko/
タンブラー 日常
https://www.tumblr.com/blog/nezuminoko
タンブラー 非日常
https://www.tumblr.com/blog/lamia-nezumiko


ランキングに参加しています。

最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
ブログ内検索
リンク