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鬼女 弐

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ええと、暗闇ってすごいんだな、と。
明るくしたら、鬼、かわいそうでしかない。怖くない。
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手首のあざ、けっこう好きです。擦り切れて血が滲んでたりすると、なお可愛い。


安心してください。病んでませんよ。うふうふ。

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鬼女

節分に豆を撒く。意味の無い風習だと思っていたが、ここのところ、そうでもないような気がして、狭いアパートなのに律儀に豆を買い、撒いている。
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とはいえ、気の毒だと思う。
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鬼女に同情した貴方、ひと押しなりとしていってくだされ。

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目隠しマスク

用意されていたのは口元が開いたマスクだった。
私はそれなりの覚悟をしていた。
何かを咥えさせられるのだろう。
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さんざん鞭うっていたぶり(男は尻だけに執着した。胸もはだけることなく、ひたすらに尻だけを乗馬鞭で痛めつけた)満足したかのような表情を見せたので、私はつい安堵のため息をついてしまった。
男はそれを見逃さず、残念そうに首をふった。
「まだ終わりじゃないんだ」
自分の考えがあまりにも甘かったことに、まだ私は気が付いていなかった。


Photo by Usagi. Special thanks !

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生贄

和江さんが家を訪れたのは、葬儀の2日後、土曜日のことだった。
両親と弟の位牌に手を合わせ、遺影を仰いで、無言のままじっとしていた。そうして、ぼそっと「みんな、向こうに行くにはまだ若すぎるね」と呟くとようやく振り返って「流子ちゃんだって、たった一人ぼっちで残されるには、まだ若すぎるよねえ」と言った。
「幼い時分に両親と死に別れる人だっているでしょうし。それよりはずっと長く生きていてくれたと思うことにします」
そう言うと、和江さんは「えらいねえ」と溜息をつく。
私は和江さんが持ってきてくれた柏餅を遺影の前に三つ捧げ、残りのふたつの味噌餡と草もちの小豆餡を眺めて、「和江さん、柏餅、どちらを召し上がりますか」と聞いた。

ちゃぶ台を挟んで、和江さんと二人でお茶を飲み、私は和江さんが「こっちがおすすめよ」と言うみそ餡の柏餅を食べた。やさしい甘みと絶妙なしょっぱさが最高においしい。
幼い頃には顔を合わせたこともあったそうだが、覚えていな自分にとっては初対面のようなものだった。しかし彼女は朗らかな人で、すぐに打ちとけることができた。柏餅を食べ、お茶を飲みながら、両親の昔話を聞かせてくれた。
「何しろ、最後に会ったのは、二十年も前だもの。流子ちゃんが生まれたからって、わざわざ徳島まで来てくれたの。その頃は伯父さん夫婦も生きていたし、流子ちゃんを抱いてそれは喜んでいたのよ。大人しく抱かれている赤ちゃんが、今はもう、こんな立派なお嬢さんになっているのねえ」

「ねえ、流子ちゃん。少し落ち着いたら、一度うちへおいでなさいな。気兼ねすることないわ。うちの家系は、私と流子ちゃんしか残っていないのよ。
 うちは神社なの。小さいけど、もう千年も守っているのだけど、私で終わり。だけど、せっかくだからあなたには知っておいてほしくて。血の繋がる、唯一の人になってしまったから」
「年寄りのわがままだから、気にしないで。でも、もし良かったら遊びに来てちょうだい」そう言って、和江さんはにこっと笑った。
その笑顔が素敵で、私は思わず「うかがいます」と返事をしていた。
父の郷里にも興味があったが、それ以上に和江さんと一緒の時間をもっと過ごしてみたかったのだった。

そして11月。連休を利用して、私は四国に渡った。
空港からローカル線に乗り換え、さらに一時間。駅から改札に抜けると、コンビニはもちろん、売店すら見当たらない。ただ、アスファルトが敷かれた跡があり、もしかしたらロータリーだったのかもしれない。かろうじて草の生える勢いが弱いエリアが、駅前だろうか。
びっくりして携帯を取り出すと、どうにか圏内であるらしい。ほっとして、和江さんに電話をかける。しかし、十回コールしても繋がらない。こんなところで、一人で放り出されたらどうしよう。冷や汗が背中をつたう。
草だらけのロータリーの向こう側に、舗装した道が伸びているのが見えた。右か左か。どちらかに歩いてみようか。

「流子ちゃん」
後ろから声をかけられて、思わず飲みかけたペットボトルの水を落としそうになる。振り向くと、いつの間に来たのだろうか、線路の向こう側に和江さんが立っていた。
「こっち。線路を渡っても大丈夫よ、電車はもう明日まで来ないから」
和江さんは、東京の部屋に来た時とはうって変わって、ジーンズに麦わら帽子、ゴム長靴に軍手といった服装である。しかし、華奢な二の腕や白い首筋は、相変わらず儚げな雰囲気を残していた。
しかし、細腕ながら力は強い。山道で汚れるからと、重いスーツケースを担いで母屋まで運んでくれた。
長旅で身体が固まっていたが、和江さんの笑顔とおしゃべりに癒されると、まるで子供の時のような気分で身軽に歩くことができた。小道を数分歩くと、深い森に入っていく。木立に陽の光が遮られ、かなり薄暗い。

右手に古いお社が見えた。
「あの神社がうちなのよ。裏に母屋があるから、そこで休んでね」
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「明日は神社のお祭りなの。流子ちゃんにも手伝ってもらいたいのだけど。いいかしら」
熱い煎茶の湯呑茶碗をことりとちゃぶ台に置きながら、和江さんは言う。
「私でできることなら、喜んで」
「難しいことじゃないの。だけれども、とても大切な役目なの。主役と言ってもいいわ。二十年に一度、神社に降りて来た神様を夜の間お慰めするの。」
「慰めると言っても、ただ、ろうそくの灯りを絶やさないようにして、そして朝まで寝ずの番をしていてくれれば、それで大丈夫よ」
「そんな大切なお役目・・私で良いんでしょうか?」
「未婚の女性しか勤めることができないのよ。そして、村の血を引いている娘でなくてはならないの。過疎のこの村で、役に適うのは流子ちゃんしかいないのよ。今年はもう、無理かと思っていたんだけど。引き受けてくれたら、とてもありがたいわ」
断る理由など無かったし、何より面白そうだった。
「やらせてください。夜は強いので、大丈夫です」
私はその夜も和江さんと話し込んでしまって床につくのが遅くなり、次の朝、目がさめると、既に陽は高くなっていた。
まずい。寝坊した!
慌てて顔を洗って台所に走っていくと、ちょうど和江さんが朝ごはんを整えてくれていたところだった。
「ごめんなさい!寝坊しました。」
「あら、おはよう、流子ちゃん。いいのよ、今夜は眠ることができないのだもの。ゆっくりしてもらって良かったわ。今日は夕方、少し仮眠を取るといいわよ」
「ありがとうございます。今からわくわくしています」
「私も、20年前にはそのお役目だったのよ。眠くて眠くて、うっかり目を閉じたら、もう明るくなっていて。それなのに、不思議ね。燃え尽きているはずのろうそくが、きちんとまだ点いていたの。誰か、替えてくれていたのかしらね」
うふふ、と和江さんは笑った。
「だからね、そんなに心配しなくて大丈夫よ。気楽にね」
二人で朝ごはんを食べて、片付けをすませると、少しずつ人が集まりだした。
「おはようございます」
「おや、この子が信さんとこの子かい?」
「そうよ、寄坐の子。ありがたいことだわ」
よりまし?
「寄坐、憑代とも言うわね。神様が降りてくるから、そう書くんだと思うんだけど」
和江さんが教えてくれた。
昼前から祭りの準備が始まり、私も村の人に混じって神社を掃除して、すみずみまで清めた。
夕方には白い装束を着た男性たちが舞を奉納し、灯明は耀く宵闇を照らし出した。
私は夕方に米と野菜の煮付けの精進料理を食べ、その後、水を浴びて身体を清め、和江さんに手伝ってもらいながら寄坐の衣装を身につけた。
しきたりに従って目の脇に紅をさし、同じように唇も朱く染める。
髪を結い、和紙で結ぶと、「お別れね」と和江さんが笑う。
「大げさです。明日の朝にはまたお会いできるのに」
「あはは、そうね」
「そろそろ向かわねと、まにあわねど」縁側の向こうから、呼ばれた。
「お勤めに、行ってきます」一礼して、立ち上がった。
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社の床板は黒く磨きこまれ、燭台が四つ、社の角に置かれていた。
教えられたとおり、ろうそくを立て、一つずつ火を移していく。
手元に持っていた蝋燭を部屋の中心にある小さな台の上に置き、ご神体である鏡の前で深く頭を下げる。
今夜は風も無く、ただ静けさが漂っていた。
長い夜になりそうだ。部屋の中には、気を紛らわせるものは何一つない。
ただ、座っているほかに、何もすることを許されていない。
細く小さな蝋燭ではあるが、2時間以上は火を保つことができるという。

鏡は薄く濁っていて、自分の顔もぼんやりと形がわかる程度にしか映らない。
部屋は暗く、山の上の社はじっとしていると凍えるほどだった。
思わず肩をすくめて、身を震わせる。

二度、ろうそくを取りかえる。時計は無いが、午前二時を過ぎたか、過ぎないか、それくらいだろう。
急に眠気が襲ってきた。頬を叩いたり舌を噛んだりして耐えるが、どうにも眠い。
ろうそくを取り替えたばかりだから、あと少しは目を閉じても大丈夫なはずだ。というか、もう無理・・ごめんなさい・・・
膝を抱えて座り、ゆっくりと太ももに身体を預けて目を閉じた。
まさか、それが大きな間違いにつながるとは、思ってもみなかった。

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「畳の上で転がして縛ってみたいんだよ」
私はレンズの向こう側の人間を知りたいと願う。
写真家の狂気が私を生かす。

8月の終わり。
うだるような蒸し暑さは日暮れ前にも残っていた。髪の毛がうなじに貼りつく。
それでも、緊張で不快感はあまり感じない。
川沿いに降りると、時折、涼しい風とともにトンボがやってくる。
辺りは公園らしく整備されていて、遠くに滑り台やブランコが見える。
小さな白い毛むくじゃらな犬が歩いている。
バスケットゴールの下には少年がいる。何度もドリブルとシュートを繰り返す。熱心に。
歩くだけで、帯の下がぐっしょりと湿るほどの暑さだ。
少年のTシャツも重く濡れているのだろう。

「これ」
ベンチを見つけて座った彼は、ポケットから小さな箱を取り出し、私にくれた。
濃紺の箱の外側には真っ白で艶のあるリボンが結ばれている。
中には、保冷材で冷やされていたのだろう、チョコレートが4粒。水滴を纏わせてそれぞれの枠に収まっている。
舌の上で溶ける生温かい塊が想像されて、触れるのをためらう。
丁重にお礼を述べ、折角の美味しいものです、もう一度冷やして、ぜひ一緒に食べませんかと尋ねた。
彼は笑って「いいですよ、そうしましょう」と言ったあと、箱の中から一粒、そっと持ち上げた。
長い指だった。
私の目の前で、コガネムシのような光沢を保ったまま、ぐにゃりと潰れていく。
甘ったるい匂いが鼻を刺す。
その塊で顔をぐちゃぐちゃに汚されるのだろうと思い、強く目を瞑った。

「せっかくお化粧をしたのでしょう?汚されるために。」
目をあける。
男は足元に腕を振り下ろした。数時間前までショウウインドウに飾られていたそれは、一瞬で砂にまみれた。
嫌悪感に男から目を逸らし、顔を上げる。
少年はまだ、ボールを跳ねさせている。
左手だけでボールを器用につかみ、シュートする。弾かれたボールを手にするのもまた、左の腕だ。
少年の体には大きすぎるTシャツ。右手のあるはずの袖が、汗を含んで重く揺れている。

「汚してあげたいけど、ここは人が多すぎるよ。これで我慢して」
彼はハンカチでチョコレートを拭きとるとポケットにしまった。そして私の両手首を掴み、箱を飾っていたリボンで素早く纏め上げた。
ずん、と身体が重くなった気がした。
どうしようもない、この機能している右腕も、私自身も、この男も、正しくない存在なのだ。
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トンボが止まってくれたのは、ほんとうのこと。
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プロフィール

鼠子

Author:鼠子
音楽と東京を謳歌する変な人。ルーツはSMだけどゼンタイ、W&Mなど、皮膚感覚とアングラを愛してます。趣味は18禁なドキュメンタリーを撮影すること。blogでは過去と現在、現実と非現実、日常と非日常のコラージュをお届け中。のんびりふらふら放浪してます。ブログのご感想など、メールでもお待ちしております。こちらからお願いします。
ツイッター @nezuminoko
フリッカー(写真おきば)
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タンブラー 日常
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